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体と心と思想をめぐって勝手に生まれてきた言葉


by bonishijima
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開高健讃

寒いから家ごもり。水面下のストレス。

またまたブックオフに本漁りに。しっかし20%オフっていうけど、いつもと違いが全然わかんないぞ。別に安くない。今回は一人で行ったので少し落ち着いて探せるものの、気ぜわしいのが習慣になってしまってやはり目に付いたものをパパッとつかんで出てきてしまう。

いろいろ買った中、敬愛する開高健氏のコラム集「知的な痴的な教養講座」は読み応えがあった。自他共に認める活字中毒だから、どーでもいいようなオモロイことの知識がぎっしり、オンナ、セックス、食べ物、酒、釣り、ファッション、モンゴル帝国の歴史、戦争などなどいつもの開高健のトピックが満載。開高健の本ってどれもホントにうまいと思う。小説もエッセイも旅行記もタッチは違えぞ、どれも骨太かつちょっとオッチョコチョイな中年男の風貌がにじみ出るような文体で最後にしんみりしたり苦笑いしたり。

この間開高健の娘さんの本をまたしてもブックオフで見つけて読んだところ、彼は重篤な躁鬱病だったらしい。自身の戦時・戦後体験に翻弄されて、高度経済成長期の日本の生活にいたたまれず、頻繁に世界の紛争地帯へ出かけていった。時折語られる戦争体験はどれも気迫がこもっていて生々しい。空腹で体が震え、木っ端に食らいつきながら体を支えた、とか。戦後一生懸命働いて稼いだお金で家族を助けることもせず、女を買いに行くしかできなかった、とか。だからこそ食べ物の道楽を書きながらも、どこか悲哀漂うおっさんだったのだろう。ちなみに娘さんは意外にもピーターラビットの料理本を書いた文筆家だったとか。開高健の死後まもなく踏切事故で夭折している。

ちなみに「知的な・・」の本の内容はどれも苦笑するような下ネタ方面なのでアレなんですが、せっかくなのでつらつら書き出すと
「男は丸干しじゃけん
女は開きじゃけん
乾きの速さが違うんよ」
らしい。

さらに
「一本のワインには二人の女が入っている。一人は栓を開けたばかり、もう一人はそれが熟女になった姿である」
ならしい。

抜粋しすぎてわかんないか。
ではこれはどうだ。

「親の体が分解して有機燐になり、プランクトンになり、それを毎年、その子が食べて育つわけだ。サケは、子を知らずして親は死に、子は親を知らずして生まれる。(中略)なるほど、昨日と今日の違いか・・・万物は流転する、輪廻転生する、形が変わるだけだ、エネルギーは不滅である、質量恒在である。(中略)インドの仏教哲学者の認識は正しかった。科学的に、まことに正しかったと思われる。それは直感を基礎にしたものではあったが、自然に教えられた認識論であった。・・・生まれ変わり説とか輪廻転生とか聞くたびに、君は今後このことを思い出す。世の中は質も量も変わらない。形が変わるだけである。むだなものは何もない。むだに見えるのは、人間の目が愚かだからである。南無。」

いきなり引用が長すぎたか。

モツ料理の話。
最近は日本でもホルモンなどが女性に大人気らしいが、開高氏も1に肝臓、2に腎臓、3に胃とおっしゃっておられる。魚は頭、目玉、唇、下腹、内臓、肉の順らしい。氏はアマゾンに棲息するピラルクの、フランクフルトソーセージのような腸にピラルクの舌を差し込んで炭火で焼いて、岩塩と唐芥子をパラパラとかけて食うためにアマゾンへ行くのだそうだ。そんな理由で旅に出るなんて豪快だけど人生ってそうあるべきだなあ。

てなわけで開高健、おすすめです。長編では自伝的小説「耳の物語 破れた繭」「夏の闇」、短編集では遺作「珠玉」がよいです。
by bonishijima | 2009-03-06 14:20 |